オタク道

昔、TV番組でタモリが言っていた。男たるもの負けず嫌いで、飲み屋なんていくと知識がどちらがあるかを競い合うような感じになる。でもそんなことを受け流す男がいる。それが井上陽水だと。そういう人間には勝てないし、中々なれたもんじゃないと。だいたいそんな感じだったと記憶している。20代頃、音楽の知識だけは負けたくないと思い、よく友だちと競い合っていた。会うと「何聴いているの?最近」というやり取りを仲間たちとよくしていた。お、きたなその質問となり、その質問を受ける前から、準備をして家を出ていた。さも知っていたような感じにする見栄の張り方も多分にあったが、その見栄をきるために頑張って聴いていたし、一時期はなるべく知りえない音楽ジャンルがないように頑張っていたと思う(特に日本のサブカル)。たいして良くわからない音楽も知っているような顔したり、カテゴライズしていたことは今思えば若気の至りの痛恨の極みの笑止千万だったと思うが、例えばタワーレコードのマンスリーフリーペーパーの、bounceの全頁を読み漏れしないように自分に課して色々と身近にあるものを情報入手していた。ライブハウスのフライヤーも片っ端からもらってきて(というかしょっちゅう、ライブを見に行っていた)、バンド相関図を作れるんじゃないかというほどの熱の入れようだった。そもそも今の様な情報入手スピードがあったわけじゃないので(90年代後半から00年代前半話)、事態はそんなに動かないんだが、鳥取のトリレーベルがどうしていいのか、京都のオルグレコーズがなぜ秀逸なのか、大阪のタイムボムレコードが行ったことないがすごそうだとか妄信含め、そしてだいたい合っていたように思う。その危機感を満たしてくれたのが、新宿に当時あったロスアプソンだったし、ロスアプソン主の山辺さんが一目置いていたディスクユニオン新宿6Fのアバンギャルドコーナーでバイトしたもんだ。そこでは色んな人たちが一緒に働いていて、店長の佐藤さんは大のビートルズマニアで子どもにレノンとつけていたり、色々な音楽分野で活動している人たちやその後の今もその流れは脈々と続いており、折に触れ、その継続性とオタク道に感嘆している。結局、今、サラリーマンの世界でもフリーランスでも創作活動している人たちでも、面白い話をする人は何かのオタクだ。そしてそんな人が飲み屋の制空権を持っていると思うし、誰かに認められやすい傾向が強い。今となってはオタクなものは何一つないのだが、やや音楽だけは少しプライドがニョキニョキとする場面があり、一方で小ちな湖程度の話しかもっていないので、音楽知識の沢山ある人の前では、閉口してしまう自信もついてしまった。そんな話でした。