さよなら夏の日 山下達郎

今年から、趣味は「夏を過ごすこと」ということにした。それくらい好きかといえば、食傷気味の今では少しトーンが落ちる。ラジオで久しぶりに山下達郎の「さよなら夏の日」が流れた。多感な10代時分、カセットテープでしょっちゅうベストテープを作っていた。その中によく入っていた曲。雨に打たれながら、僕らは大人になっていくよ♪と達郎節が特に好きなフレーズだった。当分聞いていないので、忘れかけていて、ラジオから流れたとき、うぉーと思った。中学生の俺は自転車に乗り、ウォークマンをリュックサックに入れ、とにかく遠くまで漕ぎ、夢想しながら夏をかけぬけていた。自分の生活圏内を出ること、まだ見ぬ素敵な女性に出会うこと、ドラマチックなワクワクライフが待っているに違いないと、編集した大好きな音楽を聞きながら、かなり夢想していた。カセットテープには、バービーボーイズ、BBクイーンズ、井上陽水、風の谷のナウシカ主題歌(安田成美が歌っていた曲)、渡辺美里、米米クラブ、レベッカなどが入っていた気がする。メロウな曲がとにかく好きで、腑抜けた顔で、ニヤケながら聞いていたと思う。青春ノイローゼってやつだ。あれから、幾多の雨に打たれた僕は、大人になるどころか、中指を常にたてながら、世の中が嫌いになっていく。ヒトと違うようになりたいという漠然とした意識だけは育ち、その感覚だけは研ぎすまされていく。そしていつの間にか夏を、四季を忘れていく。四季なんて気にしているなんて老人がすることだと思っていた。特に紅葉に関しては超否定的で、あんなものがいいなんて、老人クラブの団体旅行が見るもんだとよく思っていた。冬になると、「寒いし寂しいし」という独り言が数年にわたって流行っていた。春だけはなぜかやんわりと好きで、風が俺を誘うぜなんて思っていた。

いつの間にか夏を、四季を楽しむようになっていた。僕は俺に、俺は私になった。だからどうした。今年もさようならです、夏の日様。また来年会いましょう。